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2009年度;修士論文(金谷、丸山)

癌Hras1遺伝子はSL/Khマウスにおいてリンパ腫発症時にみられる

レトロウイルス挿入好発部位のひとつである

  金谷和哉

SL/Khマウスはproto-SL、AKRをprogenitorとする近交系マウスで、90%以上が6カ月齢以内にpre-Bリンパ腫を自然発症する。このマウスは遺伝的に内在性マウス白血病レトロウイルスのひとつであるAKV-1の挿入を獲得している。SL/Khマウスにおけるリンパ腫発症において、プロウイルス由来のレトロウイルスが宿主ゲノム内へと後天的に再挿入することに起因した癌遺伝子活性化の可能性を考え、pre-Bリンパ腫を発症したSL/Khマウス個体のリンパ腫組織由来のgenomic DNAを用い、Inverse PCR法によりAKV-1の挿入部位の同定を試みた。AKV-1の挿入好発部位としてはこれまでStat5aEvi3c-mycN-mycStat5bなどが同定されているが、今回新たにマウス第7染色体上の癌遺伝子Hras1のexon1およびintron1領域が挿入好発部位であることが明らかになった。挿入部位は近接する3か所に限定されており、同部位へのAKV-1挿入はリンパ腫を発症したSL/Khマウス130個体中7個体(5.4%)で認められた。挿入部位はHras1遺伝子のタンパク翻訳領域の上流に位置しており、翻訳されるタンパクは欠損や変異のない機能的なタンパクであると考えられる。AKV-1挿入ありの個体においてHras1遺伝子および融合遺伝子の発現の有無を検討したところ、検討したすべての個体でHras1遺伝子の発現が認められ、AKV-1のプロモーターによる発現であることがわかった。AKV-1とマウスの融合遺伝子は検討した4個体中2個体でHras1遺伝子のintron1領域の一部がスプライシングされたmRNAの発現が認められた。スプライシング部位はAKV-1挿入部位によらず共通していた。Hras1遺伝子へのAKV-1の挿入によるマウス宿主への影響を評価するため、AKV-1挿入ありの個体と挿入なしの個体を用いてHras1遺伝子およびHras1タンパクの発現量を検討した。遺伝子およびタンパクの発現量はAKV-1挿入ありの個体で高く、タンパク発現の上昇は有意であった(P=0.0038)。癌遺伝子Hras1のタンパク発現の上昇が、リンパ腫を発症したSL/Khマウスにおいてその発癌の機序に何らかの関連性があるのではないかと考えられる。

B-lymphoblastic lymphomaB-LBL)を自然発症するSL/Khマウスにおける内因性レトロウイルスの特定

丸山泰弘

SL/Khマウスはproto-SL、AKRをprogenitorとする近交系マウスで、生後約半年でその個体の90%以上がB細胞芽球型リンパ腫を自然発症する。これまでのサザンブロット(SB)解析で、このマウスは遺伝的に少なくとも7カ所への内在性マウス白血病レトロウイルス(MuLV)の挿入を獲得していると推察されている。このMuLVの挿入部位を特定し、その挿入が近傍遺伝子に影響を与えているか、それがリンパ腫の発症と関連があるかどうかを検討するために今回の研究を行った。

マウスgenomeを制限酵素で切断し、セルフライゲーション後、インバースPCR法を用いて挿入部の増幅を行った。得られたPCR産物を用いてダイレクトシーケンスを行い、データベースと比較検討した。その結果、以下の4か所の挿入部位が特定できた。

a:染色体2H2上で、挿入部位からセントロメア側に10761 baseのところに遺伝子、Commd7が存在した。Commd7全長約14Kbpで7個のExonを持つ遺伝子である。COMM domainはNF-κBの規制と、銅代謝の調整を行っているMURR1と相同性がある。

b:染色体15F1上で、挿入部位からテロメア側に5646 baseのところに遺伝子、olfr234が存在した。olfr234は全長522bpの遺伝子であり、臭いの感知に関係する受容体をコードしている。

c:染色体7A1上で、遺伝子Gltscr1の第5イントロン領域にMuLVの挿入部位が存在した。Gltscr1は全長28Kbpで14個のExonを持つ遺伝子で、乏突起膠腫の発症に関係しているが、詳しい機能はよくわかっていない。ヒトでは脳、肝臓など主要臓器に発現していることが報告されている。

d:染色体1A5上で挿入部位からテロメア側に42718 baseのところに遺伝子、Smap1が存在した。Smap1は全長75Kbpで10個のExonを持つ遺伝子である。骨髄のstromal細胞の表面分子をコードしており、赤血球産生に関係していると考えられている。

これらのうちGltscr1は遺伝子内にMuLVの挿入部位が認められたことから、MuLV挿入がGltscr1の発現に影響を及ぼしているかどうかを検討した。RT-PCR法を用いた定性的検討ではBALB/cマウスの脳、腎臓、肝臓、脾臓で遺伝子の発現が認められた。SL/Khマウスの脳、脾臓でも同様に発現が認められた。このことから、マウスにおいてもGltscr1は主要臓器でヒトと同様に発現していると考えられた。

次に、Gltscr1の発現をMuLV挿入部位の5’側(上流)、3’側(下流)に分けて定量的に検討した。上流では、BALB/cマウスの脾臓、SL/Khマウスの脳、脾臓、リンパ腫で発現が検出できたものの、BALB/cの脳では発現が検出できなかった。下流ではSL/Khマウスのリンパ腫で微弱な検出ができたものの、検討した他のsampleでは検出できなかった。コントロールとして用いたBALB/cマウスでの発現が検出できなかったので、MuLV挿入による影響を判断するには至らなかった。

Gltscr1内へのMuLV挿入がリンパ腫の発症と関係するかどうかは引き続き検討する必要があると考えられた。

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