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2010年度;修士論文 (廣瀬、中島)

ヒト胚子期における周辺臓器による肝臓の形態形成への影響
廣瀬あゆみ

胚子期において肝臓は腹腔内最大の実質器官であり、造血・代謝を担い、胚子や胎児の成長に大きく影響を与えている。しかし胚子の肝臓の発生、特に形態の変化に関しては現在ほとんど知られていない。そこでMR顕微鏡によって撮像された約1200例の胚子MR画像のうちCarnegie Stage(CS)14~23の67例を用いて、胚子期の肝臓の形態学的解析、形態計測学的解析及び肝内血管系の解析を行った。形態学的解析では胚子における肝臓及び周辺器官である心臓・肺・胃・後腹膜器官の立体画像を作成し、肝臓の形態学的変化を観察した。その結果、肝臓はCSと連動して周辺器官による陥凹や平面の形成、およびその消失という特徴的な形態変化を起こしていることが明らかになった。肝臓は頭側では心臓と接しており、CS17・18において心陥凹を形成する。心陥凹はCS20で消失し、CS22・23では横隔膜により隆起が形成される。背側では胃と接しており、CS15から胃陥凹を形成している。胃陥凹は胃の発達に伴って胃全体を覆うように変化する一方、十二指腸球部によりCS19から平面を形成する。背側右方ではCS20以降副腎陥凹が形成される。また腹側ではCS17・18に臍陥凹が形成されるが、CS20には消失する。一方で肺、左側副腎、後腎、生殖腺は肝臓に隣接しているが、形態学的な影響は明らかでない。これらの結果から、各CSにおける肝臓の形態とその変化を詳細に知ることができ、また肝臓は心臓・横隔膜・胃・右副腎の形態を反映していることがわかった。これは肝臓を観察することで肝臓だけでなく周辺器官の形成不全や形態異常を発見できることを意味する。形態計測学的解析では計測した肝臓の容積・断面積・3次元的分布、及び胚子の体積・腹部断面積・Trunk Height(TH)の全てにおいてCSが進むとともに値が増 加した。また、各CSにおける肝臓の縦径に対する横径及び厚みの比を計算するとCS14から17では値が増加、CS17から19では減少する傾向がみられた。肝臓の縦径に対するTHの比を計算するとCS14から17においてはほぼ一定であるが、CS17から19において急激に増加し、しかしCS20から23では再び変化が小さくなる。これは肝臓はCS17までは主に横断面における平面状の発生が進むに対して、CS18からは頭尾方向への発生が顕著である事を意味する。これらの結果から、肝臓の発生における計測基準を設け、より明確に肝臓の発生の様子を表すことができたと考えられる。肝内血管系の解析では、各CSにおける主要な肝内血管の形成状態とその位置関係を観察した。CS17以降では約70%の胚子において左・中・右肝静脈が見られ、血管形成においてもCSとの相関が見られた。本論文では胚子期における肝臓の発生及び周辺器官との関係を詳細に表すことができたといえる。将来的には妊娠初期の胎児診断における重要な基礎的データとなると考えられる。

1. Hirose A, Yamada S, Takakuwa T et al, Embryonic liver morphology and morphometry by magnetic resonance microscopic imaging , Anat Rec (Hoboken). 2012 Jan;295(1):51-9.  (概要)

ヒト胚子期における脳神経管の形態計測学的解析 
中島崇

ヒト胚子の脳室立体像

本研究では、ヒト胚子期の脳神経管及び脳室の形態学的特徴の変化を発生段階の指標であるカーネギー発生段階(CS)ごとに形態計測学的に解析し、発生過程を定量化した。MR顕微鏡で撮像された1204体の胚子MR画像の中で、外表形態及び脳、脊髄に明らかな異常が見られない胚子合計177個体を用いて、脳神経管の平面画像と脳室の平面・立体像を作成し、解析を行った。脳神経管は、マクロ形態を用いて前脳、中脳、菱脳に区分し脳胞長を計測した。脳室は、各CSの胚子が一方向から観察できる頭尾軸を設定し、脳室線、体積、幾何学的図形への近似による計測を行った。脳神経管の計測では、脳胞背側長、腹側長はCS18からCS23の間は増加し、背側の方が増加量が4.2倍多かった。前脳、中脳、菱脳に区分し比較すると、背側、腹側とも前脳の増加量が最も多く背側は腹側の3倍以上であった。これらの結果は、胚子期の脳胞発生の特徴である終脳の急速な増大を反映していると考えられた。 側脳室の側面から計測した背側線、腹側線は、CS16からCS23の間は大きく増加し、特に背側はCS20からCS23の間では9.10mmと著明に増加した。体積もCS16からCS23の間は大きく増加し、特にCS20からCS23の間では94.87mm3と著明に増加した。側面から見た背腹線の円弧への近似では、CS16からCS18の間は中心角は背側、腹側とも増減がほぼ見られず半径のみが増加し、CS18からCS23の間では中心角、半径は背側、腹側ともに増加した。これらの結果は、終脳が「CS19になると頭側方向に大きくなり、CS22、23には間脳全体を覆い形態的にも湾曲し大脳半球の”回転”も起こり始める」というこれまでの知見に合致すると考えられた。側脳室の定量的評価は、胚子期の終脳実質部分がそれほど発達せず側脳室の計測は終脳の発生変化を反映すると考えられることから、有用であると考えられた。第4脳室の側面から計測した背側線、腹側線は、CS16からCS23の間は背側は3.01 mm、腹側は2.20 mmを推移し大きな変化は見られなかった。頭側から観察した計測値はCS16からCS18の間は左右、背腹最大長とも増加したが、CS18からCS 23の間では左右長は増加したが、背腹長は増減はほぼ見られなかった。体積はCS16からCS18の間は14.50mm3増加し、CS18からCS 21の間では6.77mm3減少し、CS 21以降は再び増加した。これらの結果は、CS17頃から顕著になる橋屈がCS 20、21では小さくなることを反映していると考えられた。 本研究で得られた結果は、胚子期の脳神経管の発生を精確に定量化し、胚子期の脳神経管の発生を評価する基準値になる可能性を示した。今後、個体数を増やしさらに精確性を増すことで、胎児早期診断の発展に貢献することが期待される。

2. Nakashima T, Hirose A, Yamada S, Uwabe C, Kose K, Takakuwa T, Morphometric analysis of the brain vesicles during the human embryonic period by magnetic resonance microscopic imaging, Congenit Anom (Kyoto). 2012 Mar;52(1):55-8, doi; 10.1111/j.1741-4520.2011.00345.x (概要), [OpenAccess]

4回生から約3年かけた力作になりました。英語論文として発表することもできました。ご苦労様でした。

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